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広島高等裁判所松江支部 平成9年(く)5号 決定 1997年12月01日

少年 D・M子(昭和56.10.22生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

1  本件抗告の趣意は、附添人○○作成の抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用する。

その要旨は、少年には、もともと集団生活に置かれると精神的に極めて強度のストレスを受け、嘔吐、精神不安定、対人恐怖といった精神症状を呈するおそれがあったところ、原決定に従い教護院に送致された後数日を経ずして上記おそれが現実化してしまった、そうすると、少年の収容先としては、よりゆるやかな集団生活を送ることのできる養護施設とするのが相当であるから、少年を教護院に送致することとした原決定は著しく不当なものとして取り消されるべきである、というものである。

2  しかしながら、記録により認められる本件各非行の動機及び態様並びに少年の成育歴、非行歴、心身の状況及び養育環境などに照らすならば、少年に対しては施設収容を伴う保護処分を与えるのが相当であると判断されるところであるし、その場合の施設として、児童福祉法上の要保護児童のための開放施設である教護院を選沢した原裁判所の決定も、正当としてこれを是認することができる。

附添人は、少年の精神状況を考えると少年にとっては教護院より養護施設の方が適切であると主張するのであるが、教護院は、不良行為を行い又は行うおそれのある児童を入院させて、その性向を改善し健全な社会の一員として復帰させることを目的とする施設(児童福祉法44条)、養護施設は、保護者のない児童、虐待されている児童など良好な家庭的環境に恵まれない児童を入所させて、これを養護することを目的とする施設(児童福祉法41条)であって、両施設は、その目的も、対象とする児童も異にするものであり、少年の抱える問題状況からすれば、少年に適するのは教護院の方であることは明らかである上、単純に養護施設の方が教護院に比べよりゆるやかな集団生活を送ることができるともいうことができないから、上記附添人の主張は採用できない。少年が現在精神的に教護院に適合していない事実があるとしても、それは執行上の問題として、執行機関において解決されるべきであり、このことを加えて考えても、原決定を著しく不当とすることはできない。

3  よって、原決定は相当であり、本件抗告は理由がないから、少年法33条1項、少年審判規則50条により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 林泰民 裁判官 石田裕一 水谷美穂子)

〔参考1〕 抗告申立書

抗告申立書

少年 D・M子

右少年に対する平成9年(少)第902、951号窃盗保護事件につき松江家庭裁判所が平成9年10月24日なした教護院送致決定は不服であるので抗告の申立をする。

平成9年11月7日

附添人弁護士 ○○

広島高等裁判所松江支部 御中

抗告の趣旨

原決定には、処分の著しい不当があるので、原決定の取り消しを求める。

抗告の理由

1 本件少年事件は、たしかに原決定の述べるとおり、少年の非行の程度は相当進んでおり、規範意識の低下も認められるのであるが、少年の生育歴や小学校以来のいじめ・不登校といった経験からくる少年の精神状況を十分に把握した上での処遇とはいえず、結果としての教護院送致は少年の処遇としてきわめて不当である。

すなわち、少年は長年のいじめられ体験や、それを理由とする不登校に現れているように、集団生活におかれると精神にきわめて強度のストレスをうけ、嘔吐・精神不安定・対人恐怖といった精神症状を呈する危険があった。

そのことは、中学時代に○○病院へ入院を余儀なくされた事実からもこれを裏付けているというべきである。

2 少年としては、教護院への送致を決定した審判を受けた時点では、これを前向きに受け止め、更生の意欲を持って○○学園に入所したのであるが、24時間、同年齢の少女らと行動を共にすることが、苛められた学校時代と同じ精神症状を招き少年自身もみずからコントロールすることのできないパニック状態となっている。

すなわち、少年は教護院への送致後、数日を経ずして、右に述べたような強度の対人恐怖や精神症状を呈するようになり、手首を切ったりの行動に出たり、食べたものを吐いたり激しい胃痛を訴えて精神科医の診察・投薬を受けている状態である。

3 付添人としては、少年を家庭に帰すことには、その受け入れ体制が十分ではないことを率直に認めざるを得ないところ、しかし、少年にとって、現在、陥っているような激しい集団への不適応状態を考えると、少年の処遇については、よりゆるやかな集団生活を送ることのできる養護施設であるべきであり、よって原決定は取り消されるべきである。

以上

〔参考2〕 原審(松江家 平9(少)902、951号 平9.10.24決定)<省略>

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